子どもとの関係や接し方に悩む保護者の方や保育士さんもいるかもしれません。どんなふうに関わればよいのかと難しさを感じる場面もあるでしょう。今回はアートセラピーの観点から、絵から読み取れる子どもの心理について詳しく紹介しますので参考にしてみてくださいね。絵の扱い方や子どもが絵を描くときにどのような接し方が適切なのかをまとめました。
こんにちは。
アートセラピストの柴﨑千桂子です。
私は、普段は、セッションルームや病院などでアートを使ったカウンセリングのお仕事をしているほか、アートセラピストを育てるために教えるお仕事もしています。
アートセラピストという仕事がら、保育士さんやお母さんたちに子どもたちの絵について相談を受けることもよくあるんですよ。
そんな中で、子どもの描く絵について、ぜひ保育士の先生がたに伝えたいと思ったことがあるので、今回はそれについて触れていきますね。
絵は子どもからのラブレター
保育の現場にいると、子どもが「先生!見て!」と自分にだけ絵を見せてくれる体験があるのではないでしょうか。
人間なんだか、おだんごなんだかよくわからないぐちゃぐちゃした線を描いたのを見せて「これ、ママ!」「これ、先生!」「これ、○○ちゃん」という風に言ってきたりすること、ありますよね。
そんな時、その子に対して、どんな言葉をかけていますか?
「上手ね」?
それとも、
「あら、手はここじゃないでしょう。手は本当はこう描くのよ。」?
じつはこの時に子ども達はよく見ているのです。
大人が、この絵にどう反応するか、どう扱っているか。
「子どもたちの絵は、子どもからのラブレターだと思って扱ってほしい」
と私はよくお話します。
どういう意味でしょうか。
子ども、特に保育園に通うような年齢の子ども達は、言葉での表現がまだまだ未熟ですよね。
皆さんも経験があるのではないでしょうか?
たとえば、子どもが「オナカイタイ」と訴える時。
お腹を壊している場合もあれば、自分の心身の不調をどう表現していいかわからずに「オナカイタイ」と表現するケースもあります。
言葉にすることは子どもには難しいのです。
でも、子どもの心には、確かに気持ちや感覚があるのです。
うれしい、楽しい、好き、こわい、不安、心配、、、
こみあげてくる気持ち、もやもやする感覚を、大人ならば「なんだか最近いらいらしちゃって、私怒っているの。」と言葉で表現するところを子どもたちは絵として表現しているのです。
そのように絵は、子どもの心そのものを映し出すものです。
だから、そこに、お母さんやお友達、先生が描かれたりすることは、このうえなくすばらしいことなのです。
子どもが「私の世界の中にあなたは存在していますよ。
」という子どもからのサインです。
私は「その子の世界に招き入れてもらった。
」と解釈しています。
絵の扱い方
自分の繊細な心の内を表現した絵を大人がどう扱っているのかな、ということを子どもはとてもよく見ています。
そして、大切に扱ってくれる人に子どもは心を開き、信頼します。
ひいては、大切に扱ってくれる環境―クラスや園を信頼していくことにつながっていくことでしょう。
子どもの描く線1本にも意味があります。
それが子ども自身が自主的に描いたものであるならばぐちゃぐちゃにも意味があるのです。
まっすぐな線と少し曲がった線では、描いたその子にとっては全然違う意味を持っているということを覚えていてほしいと思います。
間違っても「あら、線がまっすぐじゃないわね。
」と直さないであげてほしいのです。
直されたとたんに、その子は、その先生やクラス・園に対して、心を閉ざしてしまうことになるでしょう。
でも、ぐちゃぐちゃの線の絵を見せられて「何の絵かな?」と困ることはありませんか?
そんな時はどうしていますか?
じつは絵に描いてあるものがわからなくていいのです。
では、子どもが絵を自分に持ってきたときにどうしたらいいでしょう?
ただ、絵をその子の目の前で大切に扱ってください。
そして、興味・関心を持った態度で接してほしいのです。
「この絵について、もっと知りたいわ。
教えてほしいな。
」
その態度が子どもに伝わることが重要なのです。
子どもにとっては、自分の絵を大切に扱われただけでなく、自分そのものを大切に扱われ、興味をもたれたことに等しいのです。
人を信頼する心を育む
自分の絵を大切に扱ってくれる大人がいる環境の中では、子どもの中に人を信頼する心も自然とうまれていきます。
人を信頼する力を、理屈ではなく、身体で子どもが体験していけることでしょう。
園は、初めての「社会」である子は多いことと思います。
親御さん以外に、モデルとなる大人に出会う初めての場です。
そこで、お友達や先生との関わりを通して、人間関係の基礎を学んでいくことでしょう。
私は、人間関係の第一歩は、人や自分が所属する場に対して信頼する力を自分の中にもつことだと思うのです。
自分の近くにいる先生たちの態度から子どもはそのことを学んでいくのです。
信頼する心は、大きくなってからの人間関係にもとても大きく影響を与えます。
人や環境を信頼できる子は、自主的に、自分からクラスの中で遊ぼうとしたり、発言したり、新しいことに挑戦したりします。
子どもに積極的になってほしいと思うならば、まずはそのクラスやクラスにいる先生やお友達を信頼する心を育てることが大切なのです。
その信頼がなくては、子どもは自分から動いていくことは難しいでしょう。
信頼のあるところに、子どもたちの成長はあるのです。
これは、私がカウンセリングの中で傷ついて心を閉ざした子どもたちにたくさん出会ってきた経験から思うことです。
カウンセリングでは、心を閉ざし、鎧のようなものをたくさん着込んだ子どもたちをほどいていきます。
彼らに私がしていることは、自分から自然と鎧を脱ぎたくなるような環境を提供すること。
それには、直接子どもに関わっている私の接し方や態度がとても重要なのです。
クライアントである彼らに接しながら思うのは、子どもたちが傷ついてしまう前に、彼らがもっと小さい時に、人を信頼する心を育む場に出会えていたならよかったのに、ということです。
子どものそばにいる大人の態度や関わりが、子どもの中に人を信頼する心を育てていきます。
それは、一食事をしたりするような日常の中でも十分に育てていくことはできます。
しかし、やはり、子どもの繊細な心に直接触れられて、信頼関係を築いていくのに最も有効な方法は子どもの絵を丁寧に扱うことだと私は思うのです。
子どもたちからのラブレターをどうぞ、大切に扱ってあげてください。
子ども達の「心の安全」を先生たちに作っていただけたらいいなと思います。
次回は、私がこどもの中の信頼する力についての原体験についてお伝えします。