子どもの人数に応じて保育士の必要な人数を定めた「配置基準」。国や自治体、施設ごとに違いがあるため、人材の確保に向けてきちんと把握する必要でしょう。このコラムでは保育士の配置基準、計算方法、違反した場合のペナルティーについて紹介します。2016年に施行された緩和措置についても詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
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■目次
保育士の配置基準とは
保育士の配置基準とは、子どもの安全安心な環境を整備するために必要なものです。
「0歳以上には3人の保育士が必要」など、国や自治体によって定められていますが、人材不足の問題が懸念されているいま、配置基準についての緩和措置も行われています。
しかし、基準を満たしていないことで保育の質の低下や安全性が確保できないというケースも考えられます。
国や自治体、施設ごとの配置基準、違反した場合のぺナルティーや緩和措置の内容を把握したうえで、人員配置の見直しや人材の確保に取り組んでいきましょう。
【国・自治体】保育士の配置基準
まずは国や自治体の配置基準について詳しく解説します。
国の配置基準
国が定める配置基準は以下の内容となります。
子どもが低年齢の場合は、食事や衣服の着脱などの援助することも多く、保育士1人に対しての子どもの人数が少なくなります。
また、上記の他に原則として常時2名以上の保育士を配置することが定められています。
自治体
国が定めた基準に加え、各自治体で地域の実情を考慮して保育士の配置基準を決めることができます。
基本的に国の定めた基準が下回らないように設定されており、保育の質の低下を招かないように自治体で厳しく設定しているところもあるようです。
出典:認可外保育施設の質の確保・向上についてp8/厚生労働省
出典:保育の現状/厚生労働省
【施設別】保育士の配置基準
国や自治体の配置基準の他に、各施設の形態に合わせた基準が設けられています。認可外保育園や幼保連携型認定こども園など施設ごとの保育士の配置基準を解説します。
認可外保育園
認可外保育施設とは、国が定めた基準を満たしていない施設のこといい、ベビーホテルや一時預かりといった多様なサービスを提供しています。
このような施設の配置基準は、保育時間数に応じて定められています。
保育時間が11時間以内の場合は、0歳児3人に対して保育士1名、1~2歳児3人に対して保育士1名、3歳児20名に対して保育士1名、4歳児以上30名に対して保育士1名、といった認可保育園同様の基準となります。
保育時時間が11時間以上の場合は現在、保育されている子どもの人数が1人の場合を除き、常時2人以上の保育士を配置することとなっています。
また、職員の資格についても規定があり、1/3以上の職員は保育士または看護師の資格が必要です。
幼保連携型認定こども園
幼保連携型認定こども園とは、教育と保育を一体化施設のことです。2015年に策定された子ども・子育て支援新制度の施行に伴い、新設されました。
内閣府「子ども・子育て新制度ハンドブックp9」の資料によると、保育士の配置基準は以下の通りです。
上記の他に、満3歳以上の子どもの教育時間については「専任の保育教諭を1人配置し、学級編成を行うこと」が定められています。
地域型保育事業
地域型保育事業とは、小規模保育事業・家庭的保育事業・事業内保育事業・居宅訪問型保育事業の4つの種類がある認可保育施設です。
0歳~2歳までの特定の年齢の子どもを預かる施設で、事業の種類や子どもの定員によって職員の配置基準や有資格者の人数に違いがあります。
4つの事業別の基準内容は以下の通りです。
※国が定める保育所の配置基準:0歳児(3名に対して保育士1名)、1~2歳児(6名に対して保育士1名)
事業別の概要や配置基準について詳しく見ていきましょう。
①小規模保育園
小規模保育園は、利用定員が6人以上~19人以内とした小さな保育事業です。家庭的な保育環境に近く、1人の職員が担当する子どもの人数も少ないことから、質の高い保育を行うことが期待できます。
A型
A型は保育所の分園やミニ保育所に近い形態です。
厚生労働省「保育をめぐる現状p5」の資料を参考にすると、子どもの人数に対して国の配置基準+1名と表記されているため、保育士の基準は以下の通りです。
職員は保育士資格保有者のみとなります。また、保育所同様、保健師または看護師を保育士とみなす特例が設けられています。
B型
B型はA型とC型の中間のタイプで、保育士の配置基準はA型同様、国の配置基準+1名として、以下の内容となります。
全体の職員の1/2以上の保育士有資格者を配置する必要があります。また、保育士以外の職員には、研修を実施することが定められています。※A型同様、保健師または看護師を保育士と満たす特例あり
C型
C型はいわゆる家庭的保育で、配置基準は以下の通りです。
市町村が行う研修を修了した保育士、保育士と同等の知識や経験有し、市町村が認めた方が家庭的保育者として保育に携わることができます。
②家庭的保育事業
家庭的保育事業とは少人数(定員が5名以下)を対象に保育活動を行う事業で、配置基準は以下の通りです。</p
家庭的保補助者がつく場合は、職員数は合わせて2名必要となります。
③事業所内保育事業
事業所内保育事業とは、企業の従業員の子どもや地域の子どもたちを対象に保育活動を行う事業です。
上記のように、事業所内保育は人数によって小規模保育園のA型、B型の基準と国が定めた配置基準を適用するケースに分けられるため、注意しましょう。
④居宅訪問型保育事業
居宅訪問型保育事業とは、保護者の自宅で障害・疾患などで個別のケアが必要なケースや施設がなくなった地域で保育活動が難しい場合に、保護者の自宅にてマンツーマンで保育を行う事業です。
定められた配置基準は以下の通りです。
障害児を保育する場合は、専門的な支援を受けられる施設を確保することも必要となります。
出典:認可外保育施設の質の確保・向上についてp8/厚生労働省
保育士の配置基準の計算方法
国が定めた基準と自治体の基準が異なる場合は、自園の地域の配置基準をきちんと確認し、必要な保育士の人数を計算する必要があります。
具体的な計算方法について見ていきましょう。
①各年齢の定員を設定する
0歳~5歳までの保育施設に必要な保育士の人数を計算するためには、まず、自園の子どもの定員や実際の人数を確認することが大切です。
認可保育園を例として計算します。
- 0歳児:9人
- 1歳児:18人
- 2歳児:18人
- 3歳児:20人
- 4歳児:30人
- 5歳児:30人 定員(125名)
②定員を配置基準で割る
実際の子どもの人数・定員を国が定めた保育士の配置基準の人数で割ります。※小数点が発生した場合は、小数点以下で四捨五入を行います。
国の配置基準
- 0歳児:子ども3人に対して保育士1人
- 1~2歳児:子ども6人に対し保育士1人
- 3歳児:子ども20人に対し保育士1人
- 4歳児以上:子ども30人に対し保育士1人
<計算式>
- 0歳児:9人÷3人=保育士3人
- 1歳児:18人÷6人=保育士3人
- 2歳児:18人÷6人=保育士3人
- 3歳児:20人÷20人=保育士1人
- 4歳児:30人÷30人=保育士1人
- 5歳児:30人÷30人=保育士1人
上記を計算すると、認可保育園で125名の園児の保育活動を行う場合は、合計12名の保育士が必要となります。
また、朝・夕方の延長保育を行う場合はさらに保育士を2名追加する必要があるため、追加人数を確認の上算出することが重要でしょう。
保育士の配置基準に違反した場合
保育士の配置基準を満たしていない場合のペナルティーについて、認可保育園や認可外保育園に分けて紹介します。
認可保育園
認可保育園は国が定めた基準を満たすことが必要です。保育士の配置基準についても規定を満たしていない場合は、都道府県知事から許可が下りないため、認可保育所として運営することができません。
そのため、違反した場合は改善勧告や改善命令などが行われるケースや認可の取り消しという重い処分が下される場合もあるようです。
認可外保育園
認可外保育園については指導監査による立ち入り調査が実施され、基準に満たしていない場合は改善指導や改善勧告が行われます。
おおむね1カ月以内に改善されない場合は、業務停止命令または施設閉鎖命令の対象となり得るケースもあるようです。
保育士の配置基準の緩和措置
保育士の配置基準について解説しましたが、近年、保育業界では人手不足や待機児童問題が懸念されています。
2016年には子どもの受け皿の拡大に向けて配置基準について緩和措置として、特例が施行されました。
厚生労働省の「保育所等における保育士配置に係る特例」の資料をもとに詳しく見ていきましょう。
朝夕の保育士の配置基準の見直し
保育所では常時最低2名の保育士を配置する必要がありますが、朝・夕など子どもが少ない時間帯については、保育士2名のうち1名は子育て支援員が代替えとして、カウントすることを認めています。
子育て支援員(家庭的保育者など)とは、市町村知事が認められた保育士と同等の知識や技術があり、子育て支援員研修を修了した方のことを指します。
資格を有するもの以外の方を時間帯に応じて保育士としてカウントできるということは、人手不足が深刻化する中で、施設側にとって大きな緩和措置となるでしょう。
8時間以上開所した場合の子育て支援員の活用
保育所を8時間以上開所した場合には、認可の際に必要となる最低基準の保育士数(例えば15名)を上回った人数を配置する必要があります。
しかし、追加する職員については保育士などに限らず、子育て支援員を代替えにカウントできるという緩和措置がとられています。※原則として子育て支援員が園の職員の1/3を超えないこと
幼稚園教諭・小学校教諭の活用
幼稚園教諭や小学校教諭、養護教諭などの資格を有していれば、保育士の代わりとして保育に携わることが可能となり、「配置基準を満たすうえでも保育士の代替えとしてカウントされる」という特例が設けられています。
子育て支援員研修などの修了、幼稚園教諭は3歳以上、小学校教諭は5歳児以上の保育を中心として保育することが望ましいとされています。
出典:認可外保育施設に対する指導監督の実施p18~19/厚生労働省
保育士の配置基準を把握して人員の確保に役立てよう
保育士の配置基準は子どもの健全な育成・安全な環境を作り上げるために重要なものです。
また、必要な人員を確保し、質の高い保育を提供することにもつながります。
採用活動を行ううえで、子育て支援員の雇用などを検討している園もあるかもしれません。
保育の質を保つためにも園独自の研修制度を用意するなど、受け入れ態勢を整備することが大切です。
職員が保育に集中することができるように、労働環境の見直しや人材確保について考えていきましょう。