育児や介護などを抱える職員が勤務時間を短縮できる「時短勤務」という働き方。雇用側が利用を促すことで、保育士さんの離職防止や人材の定着化に役立ちそうです。今回のコラムでは、時短勤務(短時間勤務制度)の概要や制度を利用する保育士が抱きやすい悩みなどもふまえて、雇用側のフォロー対策を紹介します。
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保育士も活用できる「時短勤務」ってなに?
仕事と育児・介護の両立を支える短時間勤務制度は、別名「時短勤務」と呼ばれています。
2009年に改正された育児・介護休業法により、労働者は定められた要件を満たすことで、1日の所定労働時間を原則6時間(5時間45分~6時間)に短縮して働くことができる制度が作られました。
出産や育児を機会に離職する方がいる中で勤務時間を短縮できることから、保育士さんにとって魅力的に感じられるかもしれません。
しかし、せっかく短時間勤務制度を取り入れても、保育園側のフォロー体制が整備されていなければ、働くうえでの不安がかえって増大する可能性もあります。
人材定着化を図るためにも、制度の概要や保育士が抱える悩みなどを把握して、有効的に利用できる仕組みを作り上げていきましょう。
時短勤務の概要
時間数
短時間勤務の1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)となります。
本来の勤務時間は8時間に設定している企業が多いことから、2時間ほど短縮して業務を終了することができます。労働時間の例は以下の通りです。
【時短勤務の労働時間例】
- 9時~15時45分(6時間勤務、休憩45分)
- 7時~13時45分(6時間、休憩45分)
- 8時30分~15時15分(6時間勤務、休憩45分)
また、労働時間を7時間に設定したり、隔日勤務などで所定労働日数を調整したりと労働者の選択肢が広がるような措置をとることも可能です。
短時間勤務制度を活用していても、職員が担任などを持っていると残業をお願いすることもあるでしょう。子どものお迎え時間などをヒアリングしておき、必ず退勤しなければならない時間帯を考慮して、管理職側が残業時間を調整することが大切になります。
取得対象者
短時間勤務制度は、取得対象者は以下の5つの条件を満たした方が該当します。
①3歳に満たない子を養育する労働者である
②1日の所定労働時間が6時間以下ではない※注
③日々雇用されている方ではない
④短時間勤務制度が適用される期間の中で育児休業をしていない
⑤労使協定により適用除外とされた労働者ではない
※注②について、変形労働制を導入している場合は、すべての労働日の所定労働時間が6時間以下であることを意味します。対象期間の1日の平均が6時間以下というわけではないことに注意しましょう。
適用対象外
短時間勤務制度を利用する場合、以下の条件に当てはまる方は適用対象外となります。
①当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない場合
②1週間の所定労働日数が2日以下である場合
③業務の性質や実施体制を照らし合わせると、短時間制度の利用が難しいと認められる業務に就いている場合
なお、③については短時間勤務制度の代替措置として、フレックスタイム制度や時差出勤制度などの適用を義務づけられています。
給料の設定
一般的に基本給から短縮した時間分の給料が差し引かれることが多いようです。
例えば、勤務時間が8時間から6時間に2時間短縮することで、基本給が25%カットされることもあるでしょう。もともとの基本給が25万円の方の場合、時短勤務での基本給は75%にあたる187500円に減額されます。
給料内容には違いがあるため、自園の保育士さんに説明できるように、あらかじめ明確な基準をしっかり設けましょう。
出典:短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について/厚生労働省
時短勤務で保育士が抱える悩み
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次に自園で短時間勤務制度を活用した場合に、保育士さんが抱きやすい悩みを紹介します。フォロー対策に取り組むためにも参考にしてみてくださいね。
短時間業務へのプレッシャー
保育士さんは保育活動や指導案作成、連絡帳の記入といった多種多様な仕事を担っています。時短勤務で働く場合は、以前よりも短い時間の中で仕事をこなさなければなりません。
子どもの送り迎えの時間を考えて出退勤を調整している方もいるため、残業しないように急いで仕事をこなすケースもあるでしょう。
しかし、短い時間の中で業務を行うとミスをしてしまったり、上手く職員と連携がとれなかったりとストレスを感じる方も少なくありません。
職場への申し訳なさ
短時間勤務制度を利用することで、職場に負担をかけてしまうことへの申し訳なさを感じる保育士さんもいるようです。
例えば、9時~15時45分勤務の場合であると、自身の退勤時間と保護者へ園児を受け渡し時間と重なり、バタバタとした雰囲気のなか帰ることが難しいかもしれません。
周りの保育士さんが忙しく働いている中で、自分だけ早く上がってしまうのは申し訳ない…と考えることも多いでしょう。
時短勤務で責任ある立場を任される大変さ
短時間勤務制度を活用する方の中には、勤務年数が長く、ベテランにあたる保育士さんもいるでしょう。経験豊富な方であれば、担任など責任のある立場を任されることもあるかもしれません。
期待に応えるため、一生懸命仕事に取り組みたいと考える一方、短い労働時間で仕事をこなすことに難しさを感じ、制度を利用したことを後悔する可能性もあります。
時短勤務の保育士をフォローするための対策
上記で説明したように、せっかく短時間勤務制度を活用しても、ストレスを抱えてしまう保育士さんも多いようです。
そこで、管理職である園長先生や主任先生向けに制度の有効利用を目指したフォロー対策について解説します。
職場で短時間勤務制度の説明会を行う
まずは自園の職員に向けて、短時間勤務制度の説明会をきちんと開きましょう。保育士さんの中には、「制度の内容がよくわからない」、「正社員なのに早く帰るため、他の職員の業務負担が増えるのでは?」など制度の活用に不安を抱く方もいるかもしれません。
職員の理解を得られるよう、短時間勤務制度の内容を職員全体に伝えることが大切です。
また、先輩保育士さんが積極的に制度を利用すると、若年層の職員も育児と仕事との両立に前向きになり、離職防止につながる可能性もあります。
長期的な雇用を推進するためにも、説明会を開いて職員が働きやすい職場を作り上げたいという想いを伝えていきましょう。
仕事量の調整を行う
短時間勤務制度を活用する保育士さんに向けて、仕事量の調整をしっかり行うとよいかもしれません。
責任の重い担任を任せたり、以前と同じような業務量を頼んだりするとプレッシャ―に感じ、悩みを抱えてしまう可能性があります。
仕事量の調整や役割分担の見直しを行い、子育てと仕事の両立ができるよう、職場環境を整備していきましょう。
時短勤務職員に対して定期的に面談を行う
時短勤務職員に対して定期的に面談を行い、精神的なケアを大切にしましょう。保育施設の中には制度を活用してから日が浅い園もあるかもしれません。
該当者に向けて短時間勤務制度の利用について疑問や悩みがないかを尋ね、職員が相談できる環境を整えていきましょう。
保育士の時短勤務を活用して、人材の定着化を図ろう
保育士さんの中には仕事を続けたくても、仕事量や労働時間を考えると育児と仕事の両立が難しく、現場を離れてしまう方も少なくありません。
短時間勤務制度の活用を促すと、長期雇用を支えることにつながり、離職を防止することに役立ちそうです。
保育士さんが働きやすい職場、子育てしやすい社会の実現に向けて、積極的に取り組んでいきましょう。