保育所での自己評価は保育の質の向上・職員全体のスキルアップを行うための大切な機会です。実施する際にどのような点に気をつければよいのでしょうか。今回は保育所での自己評価の概要や実施する際の流れ、ポイントについて徹底解説します。保護者や地域住民の方などに自己評価結果を公表する際の注意点もまとめました。
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保育所での自己評価とは
保育所での自己評価とは、職員それぞれが保育を振り返り、課題を捉えて今後に活かしていくための取り組みです。2008年に改定された保育所保育指針の中では自己評価を行い、その結果を公表する努力義務が課せられました。
保育所保育指針では「自己評価」について以下のように記載しています。
(ア) 保育所は、保育の質の向上を図るため、保育の計画の展開や保育士等の自己評価を踏まえ、当該保育所の保育の内容等について、自ら評価を行い、その結果を公表するよう努めなければならない。
(イ) 保育所が自己評価を行うに当たっては、地域の実情や保育所の実態に即して、適切に評価の観点や項目等を設定し、全職員による共通理解をもって取り組むよう留意すること。
(ウ) 設備運営基準第36条の趣旨を踏まえ、保育の内容等の評価に関し、保護者及び地域住民等の意見を聴くことが望ましいこと。
上記に記載しているように、子どもたちの健やかな成長を見守るうえで保育所での自己評価は重要な機会であることがわかります。
ここからは自己評価を行う目的や努力義務とされた背景について詳しく見ていきましょう。
目的
保育所での自己評価を行う目的は以下の通りです。
- 子どもへの理解を深め、保育の質の確保や向上を目指す
- 職員の技術や専門性の向上を図り、職員間の相互理解や協動を図る
- 評価結果の公表によって保育所と保護者や地域住民などとの連携を促進する
自己評価を行ったうえで課題に対する解決策を見出すことが大切になります。保育の充実に向けてどのように取り組んでいくのか、改善策を立てるうえでも重要な機会となるでしょう。
背景
保育所保育指針の改定に伴い、保育所には子どもの健全な育ちを保障し、保護者の子育て支援を行う役割があることが明確化されました。
養護と教育を一体的に展開される場として、計画に基づき保育を定期的に振り返り、改善策を見出す機会を持つことが求められています。
自己評価を努力義務と課すことで保育士さんそれぞれが子どもへの理解を深め、保育の質の向上に向けた組織的な取り組みが期待されているのです。
園内でまとめられた自己評価を公表することで保護者や地域住民と情報を共有・連携し、社会における保育所の位置づけを再確認するという背景も含まれているようです。
保育所での自己評価フロー
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厚生労働省「保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)」を参考に、保育所で自己評価を行う場合の流れを詳しく解説します。
①園内で自己評価項目の設定・振り返りを行う
自己評価の項目は特に決まっていないため、各園で地域や各保育所の実情に即して適切に設定するとよいでしょう。
保育内容(環境構成、子どもへの配慮)に関する項目もあれば、園全体の安全体制や地域との連携など重点的なテーマを基に項目を設定するケースもあるでしょう。
設定項目の例は以下の通りです。
<保育内容等に関する設定項目の例>
- 子どもの発達や成長にあわせた指導計画を立案できているか
- 日常的に子どもの気持ちを汲み取りながら保育ができているか
<園全体の地域との連携に関する設定項目の例>
- 育児相談などの機会を設けて子育て支援に取り組んでいるか
- 小学校との連携を積極的に行っているか
項目内容は園の実情をよく知る職員間で協議したうえで定めることが大切ですね。
設定後はそれぞれの職員が項目に沿って保育を振り返り、どのような課題があるのか自己評価を行っていきます。
②現状の課題を把握し、改善案を検討・確認する
自己評価を終えたら園全体で話し合いの場を持ちましょう。
それぞれの職員が評価内容を発表し、課題を持ち寄ったうえで改善策や取組の方向性を明らかにしていきます。意見交換を行い、公表に向けて内容をまとめていきましょう。
③自己評価に関する結果を公表する
次に保育所全体の自己評価結果を外部に公表します。公表後は保護者や地域住民などからさまざまな意見を求めることも大切になります。
保育所としてどのような役割を果たしているのか、社会全体に伝えるよい機会となるでしょう。
④取り組みを実施・技術の向上を目指す
自己評価を通して明確になった課題を解決できるよう取り組んでいきましょう。定期的に実践内容を振り返り、評価を繰り返すことも必要です。
職員一人ひとりが保育の質の向上に向けてスキルアップできるよう、体制を整えていきましょう。
保育所での自己評価の実施ポイント
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自己評価の流れを把握したところで、次は実施する際のポイントについて見ていきましょう。
計画的に実施する
職員は普段の保育活動以外にも運動会や生活発表会などの行事運営や保護者対応、事務作業など多種多様な業務に取り組むことでしょう。
忙しい時期はなかなか自己評価を行う時間が取れないこともありそうです。「行事の少ない時期に実施する」「スケジュール調整しやすい時期に行う」など、職員への業務負担を考えて計画的に取り組むことが大切ですね。
職員が記録を残しやすい状況を作り出す
自己評価を行う際、指導案や保育日誌などの記録を活用することが多いでしょう。
そのため、園側は職員それぞれが普段から記録を残しやすいよう、環境を整えることが大切です。
中には多忙な業務に追われ、自宅に持ち帰って記録を残す方もいるかもしれません。勤務時間内に取り組めるように配慮する必要があるでしょう。
評価の有効性を高める
自己評価の様式はチェックリスト形式もあれば、文章で残す形式もあります。どちらかの様式を選択して実施する園もありますが、両方を組み合わせて評価するとより具体的な内容となるでしょう。
動画や写真、図などを用いて視覚的な情報を盛り込む方法もあるようです。評価の有効性を高めるためにどのようなやり方が適切か、職員間で話し合う機会を設けるとよいですね。
保育所での自己評価を公表する際の注意点
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最後に保育所での自己評価を外部に公表する際の注意点を紹介します。
対象別に意見が集まるような工夫をする
自己評価は保護者のみに公表する場合もあれば、地域住民全体に開示してさまざまな意見を求めることが考えられます。
対象別に以下の点に留意して意見を募るとよさそうです。
保護者に公表して意見を募る場合
- 保護者が公表結果を確認できるよう、クラスだより・園だよりなどのおたよりを掲載する
- 園内の玄関や掲示板など保護者の目のつきやすい場所に公表結果を掲示し、意見箱を用意する
- 保護者会や参観日などに報告や説明の機会を設けて意見を募る
オンライン上のコミュニケーションツールを利用して意見を集める方法もあるようです。保護者からの意見を募ることで園への要望などを聞けるよい機会になりそうですね。
地域住民などに公表して意見を募る場合
- 園のホームページに記載し、意見を書き込むことができるフォーマットを用意する
- 公表結果をまとめた資料を子育て支援事業が行われる場所(市役所・保健センターなど)に置いてもらい手に取れるように工夫する
地域住民の方々からは貴重な意見を集約できるよう、職員からのアイデアも募るとよいかもしれません。
個人情報の流出や漏洩に気をつける
公表するうえで個人情報の流出や漏洩には十分注意する必要があります。
事前にダブルチェックなどを行い、個人情報を守ることを意識して対応しましょう。
「わかりやすさ」を意識する
公表内容は読み手のわかりやすさを重視して作成しましょう。「慣らし保育」「喃語」「外気浴」といった専門用語の記載は避けるとよいですね。
また、外部に公表する前に保護者会の代表者の方や園バスの運転手さんなどにチェックをお願いするとわかりにくい表現内容が見つかるかもしれません。
公表内容に関して改善の姿勢を示す
公表内容は結果だけでなく課題に向けた改善案も記載することも必要です。
例えば、評価結果の中で「異年齢交流の場が少なかった」という振り返りがあった場合は、「月に一度は異年齢で活動する機会を設け、楽しく交流できるように配慮する」といった具体的な内容を記入するとよいでしょう。
「課題を捉えたうえで次の保育にどのように活かしていくのか」を意識して記載するとよさそうです。
出典:保育所における自己評価ガイドライン(2020年改訂版)
保育所で自己評価を行い、業務の質の向上を目指そう
保育所での自己評価はそれぞれの職員が改めて自身の保育内容を振り返るよい機会となります。
自己評価を通して職員同士で意見交換を行い、互いの保育観や価値観を共有することも大切です。
定期的に取り組み、保育の質の向上を目指していきましょう。
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