「担任を一人で持つのが正直怖い」。そんな不安を抱える保育士さんは多いのではないでしょうか。この不安を精神論ではなく「仕組み」で解消している大阪府門真市の「たちばな幼稚園」。本記事では、副園長先生にチーム保育の裏側を直接伺いました。

新人保育士が「担任制」に不安を感じるのは当然のこと
多くの新卒保育士さんが最初に感じる不安が、「一人担任」です。一般的な「一人担任制」では、担任の先生が自分のクラスのことをほぼすべて一人で判断しなければなりません。
子どもが急に体調を崩したとき、どう対応するか一人で考えなければならない。ベテランの先生に聞きたくても、「忙しそうだから」と遠慮して声をかけられない。
こうした状況が続くと、プレッシャーだけでなく、「一人で抱えている状態が続くこと」自体が疲弊につながりやすくなります。
だからこそ、職場を選ぶときに見ておきたいのは、「一人で抱え込まない仕組みがあるかどうか」。
ここからは、この不安を「チーム保育」という仕組みで解消しているたちばな幼稚園の邨橋智樹副園長に、現場のリアルな裏側について直接お話しいただきました。
プロフィール

邨橋 智樹 副園長
学校法人邨橋学園 たちばな幼稚園(大阪・門真市)副園長。学生・保育士時代に「見守る保育藤森メソッド」発祥の園・新宿せいが保育園で研修・勤務を経験。10年前にたちばな幼稚園全体の保育をチーム保育・見守る保育へ転換。保育や教育にまつわる講演や、幅広いテーマでのコラム執筆150本以上など数多くの発信を行っている。
「一人で抱え込まない」理由は、複数人で担当するチーム保育にある
たちばな幼稚園で副園長を務めている邨橋です。ここからは、私たちが現場で実践している仕組みについてお話しします。
週替わりの役割分担で誰もが「聞かれる側」を経験する
たちばな幼稚園では、クラスを一人の担任が受け持つのではなく、リーダー・サブリーダー・アシスタント等の役割を持った複数名のチームで動いています。
3〜5歳児を異年齢混合で見るチーム編成で、全員が同じクラスの子どもたちに関わる体制です。
この体制の大きな特徴が、役割が週ごとに入れ替わることです。
先週サブリーダーだった先生は、今週はリーダー。新卒の先生も、いずれ自分の番が回ってきます。
担任が固定されている職場では、「あの先生のクラス」という属人化が生まれやすくなります。
誰かが無理をしていても、隣のクラスからは見えづらく、声をかけるタイミングを逃してしまうのです。
一方、チームで動いていれば、お互いの状況が自然と目に入ります。リーダーを週ごとに交代することで、全員が「聞かれる側」を経験できることも大きな違いです。
聞かれる側に立った経験があるからこそ、自分が困ったときも気軽に声をかけられる。これが、たちばな幼稚園の組織文化の土台になっています。
普段の保育の中で先輩の動きを見て学べる体制へ
新卒の先生は、1年目はアシスタントから入ります。掃除や給食の準備といったサポート的な役割を担いながら、先輩たちの動きを自分のチームの中で何週間も観察できる立場です。
そして、ようやく自分がリーダーをやる順番が回ってくる頃には、サブリーダーのポジションには経験豊富な先生が必ず入るので、困ったときに補助してもらえる体制になっています。
先輩の動きを毎週近くで見て、自分が動いてみて、フォローしてもらう。この積み重ねが、新卒の先生を着実に育てていきます。

河嵜 真央先生 (乳児クラス・2歳児) 経験19年
一人担任の頃は、週案やお便りなどの書類、日々のクラス運営、制作の準備も一人で行っていました。
でも、チームで動くようになって、みんなで案を出し合ったり協力し合ったりしながら準備を進められるようになり、時間を有意義に使えるようになりました。時短勤務に融通をきかせてもらえたり、自分の子どもが体調不良のときに快く早退させてもらえたりすることも、本当に助かっています。チームの先生たちには感謝の気持ちでいっぱいです。
行事前のピリピリ期にこそ、「誰が大変か」をチームで把握し合える

行事前や年度末は、書類と保育が同時に押し寄せてくる時期です。どんな職場でも、余裕がなくなるとチームの空気はピリッとしがちですよね。
だからこそ、忙しいときに職員全員がどう動くかに、普段以上にその園の姿が現れます。
たちばな幼稚園のチーム保育では、全員が状況を共有しているため「今、誰が大変か」を把握しやすい構造になっています。
リーダーだけが全体を見るのではなく、サブやアシスタントの先生も保育の流れを把握しているため、誰かが無理をしていれば、自然に声をかけられるのです。
さらに、週案やシフト決めもチーム全員で話し合って決める文化があります。「来週はこんな計画で進めようと思うんですけど、どう思いますか?」と投げかけ、雨の日の対応や、子どもの様子に合わせた変更を全員で考えます。
「相談する場」を特別に設けるのではなく、保育の流れそのものに相談が組み込まれています。
だから、たちばな幼稚園で働く先生たちは、「相談しなきゃ」と身構える必要がありません。普段から相談ができている職場では、忙しい時期に声をかけるハードルも下がります。

西林 真優先生 (2歳児クラス) 経験2年
入職前は、ピアノが弾けないし、1年目から年少の担任と聞いて「自分にできるのだろうか」と不安でした。
でも実際に働いてみると、保育はチームで行っているので、自分のできないことは先輩方がサポートしてくださり、分からないこともすぐに教えていただける環境がありました。一人で抱え込むことなく安心して保育に取り組めて、入職前に不安だったことも少しずつ自信へと変わっていきました。
先輩のフォロー体制があるからこそ、挑戦できる
たちばな幼稚園の新人育成で特徴的なのは、先輩がすぐそばでフォローしてくれる体制があることです。
新卒の先生が日々の保育に自分なりに取り組む中で、うまくいかないことがあっても、そばで見守っている先輩が自然とフォローに入ってくれます。疑問が生まれたときには、本人から「あの時はどうしたらよかったんでしょう?」と聞きにいけば、先輩がていねいに答えてくれます。まずは自分で考えて動いてみて、必要なときにしっかりと支えてもらえるという環境が整っています。
先輩がいつでも支えてくれる安心感があるからこそ、新卒の先生も一歩踏み出して挑戦しやすくなります。「正解」を最初から渡されるのではなく、自分で考えながら進められるのも、この関わり方の特徴です。
この環境で過ごす新卒の先生は、「私、できてますか?」と自ら質問をしてくることがあります。周囲がしっかり見守っている環境だからこそ、「自分は本当にできているのか」とふと不安になる瞬間があるのです。
しかしこの不安は、「自分で考えている証拠」です。考えているからこそ不安になり、不安だからこそ自分で答えを探す姿勢が育っていくのです。

寺井 千夏先生 (幼児クラス・年少組) 経験7年
対応に悩む子がいて、その子への接し方につまずいたときに、先輩の先生に相談して「こんなやり方はどう?」とアドバイスをもらい、解決できたことがありました。
週案を組み立てるときに不安があっても、チーム保育で先輩の先生が身近にいるので、なんでも相談しやすく、一緒に考えてくださるんです。心強いなと日々感じています。
園見学では、
実際の保育や先生たちの様子を
直接ご覧いただけます。
意見を出し合い、みんなで考えることを大切にする
チームで動くと、同じ場面でも人によって見方や考え方が違うことがあります。だからこそ、意見が食い違う場面も自然と出てきます。
私はこれを、マイナスなことだとは捉えていません。むしろ、いろいろな意見を出し合い、みんなで考えられることが、チームで保育をする大きな意味だと考えています。
私が現場の保育士をしていた頃も、先輩や同僚と意見を交わすなかで、自分一人では気づけなかった視点をたくさんもらいました。
人の意見に耳を傾け、自分の考えも伝えながら、より良い保育を一緒に探していく。その積み重ねが、当時の保育士としての自分を育ててくれたと感じています。
大切にしているのは、気になったことを「愚痴」として消化するのではなく、「どうすればもっと良くなるか」という前向きな課題として一緒に考えることです。
意見を交わすといっても、何でも言い合えばいいわけではありませんし、逆に一人で気持ちを抱え込んでしまうような環境では意味がありません。子どもにとって何が一番かという視点を共有しているからこそ、建設的な話し合いができます。
困ったことや悩みを安心して打ち明けられて、みんなで受け止めて一緒に考えられる。そういう関係があるからこそ、それぞれが安心して自分の意見を伝えられるのだと思います。
「見守る保育」が保育士の心に余裕を生む

たちばな幼稚園のもう一つの特徴が、「見守る保育(藤森メソッド)」です。
見守る保育とは、子どもに任せる場面と、大人がきっかけを与える場面のバランスを取る保育のことをいいます。
大人が枠を作り、その枠の中で子どもが自由に動く。そして、その枠を少しずつ大きくしていくことで、子どもの自立につなげていきます。
子どもの主体性を大事にしている園というと、自由遊びばかりのイメージを持たれることがあります。もちろん自由遊びは大切ですが、子どもを完全に自由にしておけば勝手に遊びが発展するかというと、そうではありません。
ハサミを闇雲に出せば怪我につながるように、大人がきっかけや使い方を示す場面は必要です。
そして、この保育を成立させているのが「チームで動く仕組み」です。
一人ひとりの子どもに合わせた関わり方をするには、保育士の側にも余裕と選択肢が必要だからです。
応答的な保育を支えるのは、チームの分担と余裕
見守る保育を実践する保育士に求められる力として、「応答性」が必要だと考えています。
応答性のない関わり方は、「はい、こっちに集まって」と先生が指示するところから始まります。子どもをまず動かそうとする言葉が、先に出る関わり方です。
一方、応答性のある関わり方では、最初に出る言葉が「どうしたの?」になります。子どもが何を考え、何に困っているのかを聞いてから、関わり方を決めるのです。
「やらせなきゃいけない」ではなく、「なんでできないんだろう」と考えるところから保育を始めます。
そしてこの応答性を支えているのも、やはりチーム保育です。気持ちに余裕がないと、子どもの様子をじっくり受け止めることはできません。
チームでいろいろなことを分担できているからこそ、応答的な保育ができる余裕が生まれます。チーム保育と見守る保育が、ここで深くつながっているのです。

金 将志先生 (幼児クラス・年長組) 経験10年
子どもがトラブルになっていたり、泣いていたりしたとき、すぐに対応した方がいいのかなと感じることもありました。
でも見守ってみると、子どもたちなりにトラブルを解決したり、泣いている子に友達が寄り添って助けたりと、先生がいなくても自分たちで解決していく姿があったんです。
問題を綺麗に解決してあげることよりも、子ども社会を大切にするために大人が手を出しすぎないことの方が大切だと、子どもの姿から日々感じています。
園見学では、
実際の保育や先生たちの様子を
直接ご覧いただけます。
たちばな幼稚園の働き方が向いている人、そうでない人
ここまで読んで、自分にも合いそうと感じた方も、ちょっと違うかもと感じた方もいるかもしれません。
最後に、たちばな幼稚園の働き方が向いている人とそうでない人をお伝えします。
向いているのは、調和を大切にしながら自分の意見も伝えられる人
チームで動く前提の職場なので、まず欠かせないのが「調和を大切にする」姿勢です。ここで言う調和とは、相手のために自分が黙ることではありません。
相手の言い分も聞き、自分の言い分も伝えながら、お互いを調整して話せる力のことです。同調するだけでも、自分の意見を押し通すだけでもない、その間に立てる人がたちばな幼稚園の働き方とよく合います。
もう一つ大事な要素が、新しい価値を一緒に作っていける姿勢です。話し合いが建設的になり、保育がどんどん面白くなっていく関係を楽しめる人は、たちばな幼稚園に向いていると思います。
「子どもはこうあるべき」が強すぎる人には、合わない可能性がある
一方、たちばな幼稚園の働き方にあまり向かないのは、「子どもはこうあるべき」「保育士はこうすべき」という固定観念が強すぎる人です。
固定観念を持つこと自体は悪いことではありませんが、それを更新できない、人の話を聞けない、柔軟性が持てないとなると、見守る保育の現場では難しくなるかもしれません。
自分のクラスは自分だけで完結させたい、教えることが保育の中心だと考えている人にとっても、チーム保育や見守る保育の進め方には違和感があるかもしれません。
逆に、チームで保育することを前向きに捉えられ、子どもを信頼して任せられる人にとっては、長く続けやすく、自分自身も育っていける環境だと言えます。
「一人で頑張りすぎなくていい」は、気持ちではなく仕組みでできている
たちばな幼稚園の「一人で抱え込まない保育」を支えているのは、特別な人柄や偶然の人間関係ではなく、誰もが実践できるよう整えられた「仕組み」です。
複数人で担当するチーム保育や、週替わりのローテーション、全員で話し合う週案作成など、日常のあらゆる瞬間に相談できる文化が制度として組み込まれています。
このチームのゆとりがあるからこそ、子どもを信頼して任せる「見守る保育」も実現できるのです。
文字だけでは伝わらない空気が、必ず現場にはあります。
「チームで支え合い、子どもにじっくり向き合う保育がしたい」と思ったら、ぜひ一度、実際の園を訪ねてみてください。
園見学では、
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