近年、「保育士不足問題」は一般社会でも広く知られる、深刻な問題になっています。今回のコラムではこの問題をテーマに、保育士業界の現状、また保育士が不足している原因、そしてどのような対策が行われているかについて、詳しくまとめてみました。保育士不足の問題の解消に向けて何が必要なのか考えてみましょう。

深刻化する「保育士不足問題」の現状
「保育士不足問題」は近年メディアでも大きく取り上げられ、保育業界のみならず日本全体が抱える問題にまで発展しました。2017年度末時点で「約7.4万人」の保育士が不足していると、厚生労働省が発表しています。
参照:厚生労働省「保育分野における人材確保の必要性」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000057761.pdf
保育士不足の原因は?
なぜ、少子化で子どもの数は減っているにも関わらず、保育士の数が足りないと問題になっているのでしょうか。その原因について考えてみました。
給与が安い、という世間一般のイメージ
保育士は低賃金の仕事というイメージが世間一般的には浸透しており、保育士不足に拍車をかける一因になっているのかもしれません。ただ実際には、女性の平均賃金との差はほとんどなく、都道府県によってはむしろ保育士の方が高い地域があるぐらいに改善が進んでいます。早朝や夜の勤務があるにも関わらず、割に合わないという印象が先行している部分もあるのかもしれません。
職場環境・仕事内容の難しさ
仕事の多さや効率化が進んでいないことによる長時間労働、持ち帰り残業の発生といった働きにくさが、保育士が辞めたいと思う大きな要因でしょう。他に、退職理由として常に上位を占めている「職場内の人間関係」、「仕事上の重責」も見逃せません。子どもを相手にすることは体力的な負担はもちろんのこと、安全への配慮もしなければならないため、精神的負担も少なくはないのが実情です。
明確な人事評価制度がない
保育業界では、昇格するためには「保育経験を積む」ことが基本になります。主任保育士以下の新しい役職は個人の努力が問われますが、まだ十分に浸透してはいないでしょう。年功序列という園も未だに多く、主任保育士、園長を目指すにはとにかく長く保育士を続けることが求められます。何か具体的な目標や成績を達成したら給与が上がる、という明確なものがなく、そこに疑問を感じる保育士さんもいるでしょう。

そもそも、保育士資格をとった時点で保育士になる人が少ない
一般的には、保育士資格を取得した人の多くが保育士になるのだろうというイメージがあります。しかし実際には、保育所以外で勤務をしているのはその約半数の人に過ぎません。
『保育士養成施設で保育士資格を取得して卒業した者の就職先』
・保育所 51.7%
・児童福祉施設、幼稚園など 31.5%
・その他 16.8%
参照:保育分野における人材不足の現状②
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000057759.pdf
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でも、問題の本質は?
近年、保育士の給与水準や長時間勤務が問題視され始め、国や自治体によって少しずつ改善の兆しを見せ始めています。しかし、問題解決の根本は本当にそこにあるのでしょうか。
不満が解消されても、保育士に戻りたいという人は約6割
厚生労働省が「今は保育士として働いていない人」向けに行った調査では、保育士に戻りたいと答えた人は63.6%にとどまりました。退職理由となった問題が解消されても戻りたくない、保育士という仕事への本当の不満はどこにあるのでしょうか。
保育士に戻りたくない理由
また、上記の調査では「保育の仕事に戻りたくない理由」として以下のような結果が出ています。
・賃金が希望と合わない 47.5%
・他業種への興味 43.1%
・責任の重さ、事故への不安 40.0%
・自身の体力・健康への不安 39.1%
・休暇が少ない・取りにくい 37.0%
・就業時間が希望と合わない 26.5%
・ブランクがあることへの不安 24.9%
・仕事と子育ての両立が難しい 14.9%
この結果を見ると、「賃金が希望と合わないこと」や「就業時間が希望と合わない」などの理由に関しては、他の業種・職種にも当てはまることとも言えますし、そのあたりの待遇は少しずつ改善してきています。しかし、注目したいのは「責任の重さ・自己への不安」や「休暇が少ない・取りにくい」といった保育士特有の理由です。
責任の重さに関しては保育士ならではの大変さを象徴しているとも捉えられますし、休暇の取りづらさに関しては職場の人員配置はもちろんのことですが、「同僚に遠慮してしまう」「みんなが休暇を取っていないから休めない」といった人間関係的な要素も含んでいることも否定できません。
処遇改善 ≠ 問題解決
上記の調査で、処遇の改善が保育士不足問題の解消に直結しているとは言えないことがわかりました。その事態を招いている本質的な理由は、保育士という仕事ならではの特徴にあるのかもしれません。
女性の多い職場であること
保育士に占める女性の割合は約94%で、圧倒的に男性が少ない業界です。細かいところまで気遣いができる女性だからこそ、相手ができていないことにも目がいきやすく、トラブルの発端を生みやすいという点はあるかもしれません。男性保育士が増えればトラブルも減るかと言われると、一概には断定できませんが、女性しかいない環境と違ってコミュニケーションの取り方はよりソフトなものになるかもしれません。
命を預かる責任の重さ
幼い子どもの命を守らなければならないプレッシャーは、子どもと遊ぶ仕事という世間のイメージからは計り知れないほど重いものです。ましてや、保護者の方から預かっているということや、保護者から保育園に対しての期待が、さらに重く保育士にのしかかります。もしかしたら、保育士の仕事に対する保護者の理解がより深まれば、改善の可能性はあるでしょう。
「保育士不足問題」による、ネガティブキャンペーンの影響
これだけ世間的にも取り上げられるようになった保育士不足問題を受けて、「やっぱり保育士って大変なんだな…」と保育士を志す人が少なくなったり、業界を離れる人がいるという実状もあるでしょう。目指していた職業や自分の職業に対して、このような形で問題があることを知ってしまったら、別の職業を考えるのも無理はありません。
それでも、保育の仕事が生み出す社会貢献度や、間近で携われる子どもたちの成長は、保育士でなければ感じられない魅力だと再確認していただきたいです。
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「保育士不足」解消のための対策とは?
現段階で行われている保育士不足解消のための対策は、処遇の改善が主となっています。どのような内容のものなのでしょうか。
役職の新設
給与に関しては、中堅保育士向けに新設された「副主任保育士」「専任リーダー」「職務分野別リーダー」の3つの役職で昇進・昇給がしやすくなりました。「キャリアアップ研修」を規定通りに受けることで、主任保育士の前段階として出世することができます。手当は5000円~4万円まで支給されます。
待遇の改善
長時間労働に関しても、IT化になかなか踏み込めなかった保育業界が、効率よく仕事をして残業を減らすため、徐々にパソコンの導入をしている園が増えてきています。国や自治体も補助を出し、ICT機器の導入による負担軽減を促しています。
また、持ち帰り残業になることが多い壁面装飾などについては、見直しを進める園も増えています。そもそも壁面装飾が、子どもの育ちのために「本当に必要なのか」を考えなおし、過剰な作り物はやめて、子どもの自由な作品展示の場にするなどです。昨年使ったものを再利用したり、製作専任としてパート保育士さんを雇う園もあったりと、仕事の量を減らす・分担する工夫をしている園も増えてきています。
地方自治体の対策
自治体の対策として、千葉県松戸市の「松戸手当」が手厚いと話題になりました。保育園の給与にプラスして、1年目~12年目までは月額+45000円、13年目から~20年目までは+46000円~72000円が松戸市から支給されるという制度です。松戸市にとっては、保育士不足ひいては待機児童の問題解消の一助となるかも知れません。
また、埼玉県戸田市では、新たに就職した常勤保育士に就職準備金として、最大30万円の付与がされる制度があるなど、多くの自治体が保育士不足問題解消のために解決策を考えています。
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