景気の動向を判断する指標の一つに「有効求人倍率」があります。職業ごとに違いがあり、中でも保育士はかなり倍率が高い職業と言われています。今回は、基本的な有効求人倍率の見方から、保育士の倍率が高い理由を解説します。さらに、地域ごとの違いや各自治体の対策などをデータから読み解き、現在の保育士求人について考えてみましょう。
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■目次
有効求人倍率について詳しく知る
まずは、有効求人倍率を詳しく知ることから始めましょう。
有効求人倍率とは?
有効求人倍率とは、簡単にいうと、今ある求人に対して、どれくらい働きたい人がいるか、ということを表した数字です。
つまり、これを見ることで、求人が多くて保育士が足りない状況なのか、または、求人数が少なくて保育士が余っている状況なのかがわかるようになっています。
厳密にいうと、この求人や求職者はハローワーク内での実績がある数で、求職者が職を探し始めてから2カ月以内であること、などいくつかの条件がありますが、大まかに、求人と求職のどちらが多いのかがわかる 、という認識で問題ないでしょう。
基本的な公式としては、
(求人数)÷(求職者数)=(有効求人倍率)
という簡単な計算式で求めることができます。
「有効求人倍率が高い・低い」とはどういうこと?
次に、有効求人倍率の「高い・低い」について考えてみましょう。
もし、保育施設の求人数が100件あって、仕事を探している保育士さんが100人いたらどうでしょうか?
このような場合は、求人数と求職者の数が同じですから、職を探している保育士が全員保育士として働けるということになりますよね。
この時の有効求人倍率は、100÷100=1倍になります。
有効求人倍率は、この1倍を基準として、それより低いか高いかを考えていきます。
求人倍率が高い=求人の数が求職者より多い
では、もし保育施設の求人が150件あって、職を探している保育士さんが100人いたらどうでしょうか?
この場合は、求人数が求職者を上回っています。職を探している保育士さんは全員職が見つかる一方で、人手が足りない保育施設が出てしまいますよね。
この時の有効求人倍率は150÷100=1.5倍。
1倍より高くなりました。
つまり、有効求人倍率が高いということは、仕事を探している保育士が全員就職しても、まだ求人が残っており、保育士の売り手市場だということができます。
求人倍率が低い=求人の数が求職者より少ない
では、もし保育施設の求人が50件しかなく、仕事を探している保育士さんが100人いたらどうでしょうか?
この場合は求職者が求人数を上回っています。
求人が50件しかないのですから、1つの求人に2人面接を受けに行っても片方しか採用されず、結局50人の保育士さんが余ってしまうことになります。
この場合の有効求人倍率は50÷100=0.5倍となります。
1倍より低いということは、つまり、保育士が余っている状況だといえます。
このように、有効求人倍率は、求人と求職者のバランスを考える指標となっているのです。
保育士の有効求人倍率のいま
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では、全国的に見た場合、またほかの業種・職種と比較した場合、保育士の有効求人倍率はどれくらいなのでしょうか。
ここでは全国との比較や他業種との比較、地域ごとの比較を通して保育士の有効求人倍率のいまを探っていきます。
保育士の有効求人倍率の位置づけ
保育士の有効求人倍率を他業種、全国平均との比較の中から見ていきましょう。
ここでは、全国の保育士の有効求人倍率をデータから比較していきます。
まず、2023年4月時点での保育士の有効求人倍率は、3.30倍となっており、ここ数年は2~3倍で推移しています。
つまり、保育士1人に対して、2~3件の求人があるということになります。
同じ時期の全職業の平均は1.35倍。
他業種と比べると、保育士の需要は倍以上になっているといえます。
なお、さまざまな職業がある中で、保育士同様に福祉サービスを提供する「介護サービスの職業」の倍率は3.44倍、「保健医療サービス」では3.13倍となっています。
このことから、保育士の有効求人倍率は全体の中では高め、同様の業界の中では、中程度ということがいえるでしょう。
近年の保育士需要の推移
保育士の有効求人倍率を過去5年間の全国平均で見てみましょう。保育士需要のトレンドがわかります。
ここでは、2018年~2022年それぞれの10月もしくは11月のデータを比較します。
2010年以降上がり続けていた保育士の有効求人倍率が、2020年以降少しずつ下がり始めている のが分かります。
この減少については、以下の複合的な要因があると考えられています。
- 少子化が進んでいることによる乳幼児の全体的な減少
- 処遇改善事業による、保育士の賃金水準の上昇による離職率の低下
- 共働き世帯増加の頭打ち
- コロナ禍による生活スタイルなどの変化
とはいえ、全職種と比較すると、保育士の有効求人倍率は相変わらず高い傾向が続いています。
さらに今後、2025年に待機児童のピークが来るとの予測もあるので、今後もこの傾向は続くことが予測されています。
また、2024年度からの実施が見込まれている「こども誰でも通園制度」の導入によって、さらに保育士の需要が高まる可能性も否定できません。
都道府県ごとの有効求人倍率
保育士の有効求人倍率にも地域差があります。
一般的には、保育所の数が多い、人口が増加しているなど、保育需要が高まっている地域で有効求人倍率が高くなる傾向にありますが、近年の傾向としてそれだけではない現状も見えてきます。
ここでは、2022年10月時点でのデータをまとめました。
全国で最も有効求人倍率が高いのが栃木県で4.51倍。
1人の保育士に対して、約4.5件の求人があります。
保育士の有効求人倍率は、2012年前後から全国的に上昇傾向が続いており、ピークとなった2018年には、東京では6倍を超える数値となりました。
その後も、全国的に高い水準を維持していましたが、2020年のコロナ禍を機に減少傾向となっています。
2022年には、全国的な減少が続く中で、数値の下がり幅の関係により、相対的に栃木県の倍率が目立ってきているというのが現状のようです。
求人が多いのは首都圏や大阪など都市部と思われがちですが、割合にしてみると3倍を超えている福井、滋賀、島根、広島、沖縄など、地方でも保育士の需要はまだ高いようです。
保育士の有効求人倍率が高い理由
近年減少傾向にあるとはいえ、他業種と比較すると高い数値を維持している保育士の有効求人倍率ですが、その理由にはどのようなものがあるのでしょうか。
社会の変化による保育需要の高まり
社会の変化に伴って保育需要が高まっていることが、保育士の有効求人倍率が高い理由の一つでしょう。
時代の変化とともに、共働き世帯の増加や祖父母世代との同居が少なくなるなど、子育て環境が変化してきました。
早朝や夕方以降まで長時間預かりをしてくれる保育園の役割が大きくなり、保育士の需要も高まっています。
新規園や定員増による人手不足
保育需要の高まりによって発生した待機児童問題を解消するために、都市部を中心に新規園の建設ラッシュや定員を増やす流れがあります。
その一方で、毎年保育士として働き始める人数が大きくは増えていないことから、保育士の数が保育園の定員に追いついていません。
そのため、施設側にとっては求人を出す場合が多くなり、相対的に保育士の有効求人倍率が高くなっているのです。
自治体の保育士不足解消の対策
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保育士の人材不足解消のため、各自治体ではさまざまな対策をしています。
2020年以降に保育士の有効求人倍率が下がった背景には、国や自治体によるこれらの施策が功を奏した という見方もあります。
特定の自治体内で働く保育士に給与がアップ
保育士の給与に独自の上乗せをする自治体が増えています。
その地域で保育士として働くだけで給与に上乗せがあるのですから、近隣の自治体で働いていて給与の安さに悩んでいる保育士には、地域をまたいだ転職を考えるきっかけにもなるでしょう。
例えば、千葉県松戸市では勤続年数に応じて異なる手当を支給しています。
1~11年目までの保育士には月額4万5000円、12年目以降は20年目まで年ごとに上乗せ額が徐々に増えていき、月額最大7万8000円の手当が支給されるケースも。
給与が低いと感じがちな若手や、中堅保育士さんの暮らしが改善するうれしい制度ですね。
自治体からのボーナスや賞与の補助金支給
給与とは別の賞与のような形で、まとまった金額の一時金を支給している自治体も増えています。
働き始めて〇万円、1年働き続けてさらに〇万円と、一時金を支給することで保育士が働き続けやすくする取り組みです。
埼玉県戸田市では、市内の私立保育所などに勤務する対象の保育士に、賞与として年間20万円の上乗せ支給を行った保育事業者に対して、その額を補助するといった制度を導入しています。
このような形で年収の底上げを行なう施策によって、より多くの保育士が市内で働き始めてくれることを目指しています。
家賃負担を実質ゼロに
都市部の自治体を中心に実施されているのが、保育士の家賃負担を大幅に軽減するための宿舎借り上げ制度や家賃補助制度です。
寮として保育園が契約した賃貸物件に格安で住むことができるほか、施設側と自治体が協力して、保育士の家賃負担が実質ゼロになるように、家賃に対しての補助金が支払われる場合も多いようです。
都市部では8万2000円を上限にする地域が多く、年間100万円に近い家賃負担が減ることになります。
保育士の経済的負担を減らして、より多くの保育士が地域で働いてくれるよう取り組んでいます。
出典:一般職業紹介状況(令和5年度4月分)について/厚生労働省
有効求人倍率が高い保育士の今後は?
待機児童問題の解消を目指して、新規園の開設や定員の増加が進む中で、保育士の需要は依然として高い状態が続くことが見込まれます。
とはいえ、有効求人倍率はあくまでも一つの指標です。保育士として働いたり、就職活動や転職活動をしたりする中での実感と完全に一致するとは限りません。
そのため、就職・転職活動を考えている保育士さんは、求人票のチェックや園見学を通して、しっかりと情報収集をしたうえで、自身にピッタリな施設を見つけてみてくださいね。
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