社会福祉法人みずほ育伸会は、2016年11月にさいたま市大宮区に設立。法人設立3年目という新しい社会福祉法人で、現在4つの認可保育園を運営しています。保育士の早期離職がクローズアップされる業界の中で、みずほ育伸会は、認可外時代から7年間も「新卒離職率ゼロ」を達成し続けています。保育者、子ども、保育園にかかわるすべての人にとって魅力的な環境とはどのようにして作るのか、園での生活や取り組みについて、その秘密を松島弘幸理事長にお伺いしました。
目次
お話してくれたみずほ育伸会の皆さん
松島弘幸園長/理事長兼任(以下、松島園長)
前職は、人材派遣会社で働いていた松島園長。リーマンショック後、女性の社会進出が急増する中で「働きたい女性たちが、子どもの預け先がなくて就業や復職ができない厳しい現状」を目の当たりに。そこから、生来の子ども好きも後押しして、保育の勉強と保育園の経営に着手。8年前にさいたま市中央区与野本町に認可外施設を開設し、2016年に社会福祉法人を設立しました。
福田彩芽先生(以下、あやめ先生)
昨年度の新卒でキャリア2年目。今年は、4歳児クラスを初めて1人で担当。「子ともたちが主体となって、のびのび遊ぶ保育を実践したい」という夢をもち、日々奮闘しています。
川上魁世先生(以下、かい先生)
今年度の新卒でキャリアは1年目。今年は、2歳児クラスを担当。自身のフリースタイルフットボールの競技者としてのスキルと、「子どもたちに体を動かす楽しさをしってもらいたい」という思いを、保育にどうやって生かしていくか、夢に向かって模索中です。
新卒離職者ゼロ。『保育士全員が夢を持ち、汗をかける職場環境』とは
ーーーみずほ育伸会は、3年前に社会福祉法人として設立されて以来、新卒離職者ゼロだというお話を伺っています。
【松島園長】社会福祉法人としては3年ですが、前身の与野本町で始めた認可外保育施設時代から数えて8年目です。
その7年間、そして現在も新卒離職者ゼロなんです。
ーーーそうだったんですね。どうすれば、7年連続新卒離職者ゼロを達成できるのか、詳しくお伺いしたいです。
【松島園長】僕らは、何か特別なことをしているという意識はないんですよ。
僕の前職はサラリーマンですが、その時代に
「本来なら支店長がすべての仕事をこなして実績を作らなければいけないところを、部下が上司に代わって、作ってくれている」
という考え方を教えられました。現在の保育園でも、同じことだと思ってるんです。
本来は理事長、園長が率先して保育をしなければいけない。でも代わりに先生たちが頑張ってくれているから、子どもたちが笑顔でいられて、保護者が安心して子どもを預けることができる。
だから僕や他の園長たちは、保育士さんたちが保育に一生懸命になれる環境を作っているんです。
保育理念を子どもたちだけではなく、先生たちに置き換える
【松島園長】みずほ育伸会は『子どもひとりひとりの個性と主体性を重んじ、その限りない可能性を引き出す援助を行う』という理念があります。その理念を先生たちにそのまま置き換えて考えている。
つまり先生が自分の主体性を生かして、のびのび働けるような環境作りをしているんです。
子どもたちの様子を一番見ているのは先生。基本的には、先生たちがやりたい保育を尊重し、「こうやって、子どもたちに気づきを与えたい!」という方法や道のりは、すべて先生が考え行っています。
今年は先生からの提案で、園全体で行う活動として、ボディペインティングを取り入れてみました。「当日は汚れてもいい服装で登園させてほしい」と保護者の方にお願いをして、園庭のプールを使って行いました。
当日は先生も子どもたちも本当に楽しそうで、大いに盛り上がりました。家ではできないことが経験できたと、保護者の方にも喜んでいただけましたよ。
もちろん、みずほ育伸会には法人の保育方針がある。その範疇で『子どもたちのため』という前提があれば、基本的にNGは出しません。はみ出したとしても、納得するまで話し合います。
もしかすると、園マニュアルがあったほうが楽という、きちんとしたマニュアルがほしいひとには、少し大変な環境なのかもしれないな。
新卒は真っ白な画用紙にどんな絵を書いてもいい
3歳児、秋の製作。思い思いのりんごができました
ーーー現場での保育経験ない保育士さんの場合は、教科書のようなマニュアルがあったほうが安心と考える人も多いかもしれません。採用は、保育に関する経験を重視している部分もあるのでしょうか。
【松島園長】実は僕は、園の採用基準の中で『保育の経験』はいらないと考えています。
むしろ人間として、社会人として、対話やコミュニケーションがしっかりとれる人であればいいなと。
ーーー未経験の方の育成は、苦労される部分も多いかと思います。何か大切にしていることや意識していることはありますか?
【松島園長】未経験の1年目は、何を失敗してもいいと思っています。それが1年目の特権。失敗したことを次に生かしていこうという考え方です。
未経験とは真っ白な画用紙のような状態だから、失敗の絵、間違った絵、どんな絵を自由に書いてもいいんですよ。
ストローを使った「吹き絵」。吹き加減によって、出来上がりもさまざま。
だから1年目のうちに、わからないことや曖昧なこと、不安なことは、なんでも聞いてほしい。不安を残したまま2年目になれば、次に入ってきた人たちが、間違っている状態を正しいと思ってしまうでしょう。
『周りが育てる。そのためのフォローはいくらでもする』という空気が、今まで同じ経験をしてきた先輩全員に、共通してあるんだと思います。
どきどき、わくわく。
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未経験もベテランも、全員輝くための『コミュニケーション』
楽しいジェネレーションギャップ
ーーー未経験の方だけでなく、異なる年代の方が幅広く働いているのも、みずほ育伸会の特徴だと伺っています。
【松島園長】そうですね。現在みずほ育伸会には、20代~60代の幅広い世代の保育士さんたちが働いています。
ーーー働く上で世代間での考え方のギャップや、上下関係のようなものはないのでしょうか。
【松島園長】働く上での年代間のギャップはない、ですね。世代が違うことによって、楽しいジェネレーションギャップはありますよ。
例えば、童謡の『アイアイ』の歌詞。年代によって覚えている歌詞がちょっとずつ違っていることが発覚して、この間先生たちの間で話題になって盛り上がりました。
むしろ世代が程よく離れているからこそ、園の中でのコミュニケーションが円滑になっていることもありますね。
ーーー例えばそれは、どのような部分でしょうか。
【松島園長】世代が大きく違うことで、お互いに支えあえる部分も多くあります。例えば、年上世代が積み重ねてきた人生経験が、保育以外の部分でも、若い世代の先生たちにとって心強い場面が出てくるんです。
ある60代の先生は、メンタルケアの資格を持っているので、働く上での悩みや人間関係など、うまく間に入ってくれます。もちろん子どものメンタルに関しても熟練しているので、園内研修の主力として活躍しています。
40~50代の先生にとって20代の先生は、自分の子どものような年頃なので、親のような目線で話を聞いたり見てくれている部分もあるようです。
現在は60代の先生が中心になって、グループワークを取り入れた職員間のコミュニケーション研修も行っています。
「実現したい」を明確にするためのコミュニケーション
ーーーみずほ育伸会では、対話やコミュニケーションにとても力を入れている印象を受けます。先ほどのお話でも、採用の際に重視しているのが『対話やコミュニケーションがしっかりとれる人』であると。
【松島園長】経験以上に自分の言葉で考えて話せることが、保育をする上で大切だと考えています。例えば保育に関して「指導計画を立てました。これでいいでしょうか」と主任や園長に確認をすること、ありませんか。
でも、僕らに正解を求めるのではなく、「子どもたちのために保育をやっている。だからこの保育がやりたい」と考えを持って話してほしいんです。
また『子どもたちのため』という考えが、本当に子どもたちのためになっているのか?実は先生のためだけになっていないか?ということは、年齢、経験、立場に関係なく、常にフラットな関係で話し合って検証しないといけない。
だから日常業務でも、自分の言葉で話せるコミュニケーションを大事にしてます。
一人の社会人として、豊かなコミュニケーションスキルを育てる
ーーー一般の会社で行われるプレゼンのようなコミュニケーション能力ですね。今の社会では、正解ではなく自分の考えが求められる場面が圧倒的に多いです。
【松島園長】そうです。でも、保育業界では自分の考えを言うことが、まだまだ当たり前じゃない。でも自分の意見を伝える力が、先生たちの『やりがい』につながっていくと、僕は考えています。
ーーーコミュニケーション力もそうですが、みずほ育伸会では、先生たちが一人の社会人として生きていく力を育てようとしているのだと感じました。
【松島園長】僕は人材派遣会社で働いていたのでよく分かるのですが、どの業界も離職する理由は給与、休み、環境、人間関係が大きな理由を占めています。待遇面は運営側が頑張ればどうにかなることもある。でも人間関係だけはどうにもならない。
みんなが働きやすい関係は、現場で働く一人ひとりの配慮や工夫で成り立つものだと考えます。
例えば、保育園の行事では、準備することも多く、膨大な作業量になる場合もありますよね。そんなとき「準備が間に合わない」と、つい周囲にマイナスな言葉を発してしまうこともあるかもしれない。
そういうときは、あきらめる前にまず、「今の自分の力量ではできない」と助けを求めて、解決策を探してほしいんです。
どこにいっても社会人として、自分自身を客観的に見つめ、他に向けて発信し、前向きに解決策を相談できるようなコミュニケーション力をつけること。一人ひとりが周囲を気にかけることが大事だと思っています。
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保育士として「みずほ育伸会で働く」ということ
ーーーここからは、昨年度入社のあやめ先生と今年度入社のかい先生のお二人にも、お話をお伺いします。どうぞよろしくお願いいたします。
【あやめ先生】【かい先生】よろしくお願いいたします。
直観で「いいな」「できそう」と思わせてくれた
ーーーお二人とも新卒で入職されていますね。学生時代に行った就職活動では、みずほ育伸会のどのようなところに魅力を感じて、採用試験を申し込まれたのですか?
【あやめ先生】就職活動は、大学3年生からです。保育実習が終わってすぐに始めました。
最初は、施設保育士になりたかったんです。保育園実習でガチガチに緊張してしまって、自分には向いていないのかな…と思うことが多くて。自分が中心になって動くことに、苦手意識がありました。
でもみずほ育伸会では、フリーや複数担任で先輩が指導してくれるところから始められると知って、見学に行きました。園長先生や主任の話を聞いているうちに、不安がやる気に変わって「やりたい」と思ったんです。すぐに面接を受けました。
【かい先生】僕は、専門学校の2年生から就職活動を始めました。
熊本県の出身なんですが、保育士をしながら、同時にかなえたいと思う夢もあって。インターネットでさまざまな首都圏の保育園を調べていました。
そのとき、こちらのHPを見ていたら『子どもたちと共に笑い、共に泣き、たくさんの感情を共有し、たくさんの人に愛される保育者になってください』と書いてあるのを見つけました。
僕の『いろんな人から愛される保育士を目指したい』という夢とぴったり重なって、ビビっときたんです。すぐに試験を受けたいと申し出て、就職を決めました。
「初めて」の不安を払拭してくれた場所
ーーー実際に入職してみて、初めての保育士、社会人経験は不安だと思います。日々、どのように乗り越えているのでしょうか?
【あやめ先生】新卒1年目は、年齢が近い先生と複数担任をさせていただけたので、安心して相談ができました。他の先生方も自然に気にかけてくれる環境なんです。
もちろん壁や葛藤はたくさんありました。特に私は書類作成と裁縫が苦手で、時間がかかってしまいます。
そんなときは、先輩を始めいろんな人に何でも質問します。先輩に「お時間いいですか?」と聞いて、どんどん相談や質問をしていました。質問のタイミングは、昼休みの時間やコミュニケーションツールをフル活用です。
何でも質問できる雰囲気があるので、とてもありがたかったです。おかげで学校で学べないことを、現場でたくさん学ぶことができました。
キャリア3年目の職員と園長。職員同士がフラットに話し合える雰囲気で、なんでも相談できる
【かい先生】僕はいま1年目ですが、何を聞いていいか『分からないことが分からない』という状況に陥ってしまったんです。いろいろ考えてしまって動けずにいた僕に、「ここ、お願いしてもいい?」と先輩から積極的に話しかけてくれました。
入職してからはピアノ演奏と製作が苦手で、壁にぶつかっています。相談したら、先輩たちが楽譜を読みやすく簡単にしてくれたり、製作も効率のいいやり方を教えてくれたり。あやめ先生にも、書類の書き方を教えてもらってるんですよ。
松島園長との距離もとても近く、同性なので相談もしやすいです。園長が毎日各クラスを回って子どもたちに関わってくれるのも、とてもうれしいですね。
「夢」を見つけ「夢」を実現させる
ーーーみずほ育伸会で保育士として働いて、入職前に考えていたやりたいことや目標は、いま実現できていますか?
【あやめ先生】保育でやりたいことは、いま全部やっています。
現在は、4歳児クラスの一人担任を任されています。全部一人で行うのですが、とてもやりがいがあって楽しいです。
主活動や製作は週案で提案し、OKがでればどんどん進めていきます。主任と園長に直接相談し、アドバイスもいただけます。
いまは、担当しているクラスの特徴を生かして、のびのびした保育をしたいと考えています。子どもたちの力で遊びを発展させられるような保育を積極的に取り入れ、遊びが続いて広がっていくよう日々工夫しています。
風船バレーを活動に取り入れた時には「楽しそうだね」と先輩方も見に来てくれました。
かい先生は、あやめ先生のクラスの子どもたちの監督として練習に参加
【かい先生】僕は、子どもたちに体を動かすことの楽しさを伝えたいなと思っています。
生活の中で自然にスポーツに触れてもらいたいので、その方法を学んでいって実現させたいという目標があります。
実は僕のもう1つの夢は、フリースタイルフットボールの競技者になること。それで最近、サッカー大会に参加する4歳児クラスの監督を任されました。練習前は責任も大きく不安でしたが、実際にやってみて楽しさを感じています。
みずほ育伸会では、相談してGOが出たものは、すぐに保育現場に生かせるんです。僕が提案した、カードをめくって出た色のおもちゃを片づける遊びなども取り入れてもらいました。
ーーー新人らしいたくさんの不安や葛藤がありながらも、周囲が見守ることでのびのび成長し、一歩づつ夢をかなえていく様子が伝わってきました。
松島園長、あやめ先生、かい先生、今日はたくさんの素敵なお話を聞かせていただいて、どうもありがとうございました。
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5分でかきこむ昼食、休憩中の書き物、持ち帰りの制作……。そんな毎日を「子どものためだから仕方ない」「保育士なら当たり前」と思い込んでいませんか?責任感が強い先生ほど無理をしがちですが、それは解決すべき...

「壁面制作が終わらない…」これって私の要領が悪いだけ? 厚労省データ「平均残業月3時間」の裏にある保育士のリアル
「先輩より先に帰るなんてできない」「壁面制作が終わらないから、持ち帰って家でやろう」 そんな毎日が当たり前になっていて、感覚が麻痺してきませんか?保育士のミサキも、そんな一人でした。 しかしある夜、ふ...
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【編集後記】保育士として、社会人として、みずほ育伸会で成長していく
取材通してとにかく印象的だったのは、職員の皆さんと子どもたちの自然とこぼれる笑顔でした。
みずほ育伸会は、子どもたちの個性と主体性を尊重する保育を実践していますが、それと全く同じ理念を持って、先生たちが働く環境を整えています。
法人として、社会人としての一人ひとりの主体性を重視する考え方は、働く全員に息づき、風通しのいい関係性と環境が自然に培われているのでしょう。
夢や仕事のやりがいは、他人から教えてもらうものではなく、自分で考え発信し、かなえていくものなんだと、新卒のお二人のまぶしい成長を見て、編集部も新たに気づかされた思いです。
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