元保育士ライターの佐藤愛美です。
私も過去に何度か転職を経験しましたが、働く保育園を選ぶ時、園の規模を選択の基準にしている方は多いと思います。
園児の定員が20名未満の小規模保育事業があれば、200名近い子どもを預かるマンモス園もあり、在籍する子どもの人数や施設の規模によって職場のカラーは大きく異なります。
私が過去に働いた保育園は、定員50名の中規模の認可保育園でした。0歳から6歳までの子どもたちが在籍する、小さすぎず大きすぎることもない保育園。首都圏には、これくらいの規模の保育園が多く存在します。
今回は私の経験をもとに、中規模の保育園で働く良さと難しさに関するリアルなお話をお伝えします。
中規模保育園で働いて良かったこと
一人ひとりにじっくりと向き合える環境
小規模や中規模の保育園では「家庭的」という理念を掲げているところが多く、実際に一人ひとりの子どもたちにじっくりと向き合うことができます。
受け持ちの子どもが20名だったらできないけれど、10名だったらできるケアはたくさんあります。
おむつを交換する時に、ゆっくりと時間をかけて向き合うことや、泣いている子の隣に座って二人きりで話を聞くこと。
「今、忙しいから後でね」と言うことが少ない環境だったなと思います。
保護者との信頼関係を築きやすい
子どもにじっくりと向き合えると同時に、保護者にも時間をかけて向き合うことができます。クラスの人数が少ないということは、保護者のお迎えの時間が一度に重なる……ということも稀です。
そのため、お迎えの時に「先生、今日は職場でこんなことがあったんですよ〜」というお母さんの話も余裕を持って聴けるのです。
育児とは関係のない話をすることで、保護者の心もほぐれ、信頼関係を深めていくことができます。
一人ひとりの保育士がアイデアを活かしやすい
私の働いていた職場は、担任の人数も十数名と少なく、若い保育士もベテランの保育士もキャリアに関係なく意見を交換し合っていました。
保育士の人数が多い職場では、一人ひとりの保育士(特に若手)の意見が通りにくい場合もありますが、中規模の保育園では職員の人数が少ない環境が幸いし、アイデアを実行する機会に恵まれていました。
たくさんアイデアを持っていて、積極的に挑戦していきたい方にとっては働きやすい環境だと思います。
「おうち」に近い環境で保育ができる
中規模保育園の醍醐味は、子どもたちが普段過ごしている家庭に近い環境で保育ができることではないでしょうか。
特に乳児クラスでは、家庭的な良さを活かした保育がしやすく、一人はねんね、一人は絵本、もう一人はちょっとお散歩に……といった個別の対応をしてあげられる良さがありました。
これは、人数が少ないからこそ可能な保育だったと感じています。
少人数だからこそ、ちょっと特別な活動ができる
子どもたちの人数が少ないからこそできた活動もあります。
1歳の子どもたち8人と一緒にお散歩に出掛けた時、近所のお米屋さんが「ちょっとお店に入って精米の様子を見ていくかい?」と声を掛けてくれたことがありました。
またある時は、「今日はおにぎりが作りたい!」という子どものリクエストに応えて、その日の活動をおにぎり作りに変更したこともあります。
子どもたちが少人数だからこそ、臨機応変な計画の変更と準備を行いやすいというメリットがあります。
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中規模保育園で働いて感じた難しさ
施設の狭さが弱点
首都圏の50名規模の保育園は、決して広いスペースがある施設ばかりではありません。
私が働いていた保育園も、クラスの子どもたちが全員で体操をすると体がぶつかってしまうくらいの広さでした。
基準を満たしている認可保育園であっても、子どもたちが思い切り体を動かすことのできる環境作りは簡単ではありませんでした。
職員の人間関係も濃厚になりやすい
職員の人数が少ないため、人間関係も密になりやすいという特徴があります。
信頼関係を築きやすく、意見がいいやすいという良さがある反面で、仕事とプライベートの境目が曖昧になり、苦しい思いをすることもありました。
地域の方に気を使う
小規模、中規模保育園は、住宅地の中にあることが多く、私が働いていた園も民家やマンションの間に位置していました。
早朝と夜間は窓を閉めて音が漏れないように配慮したり、住宅地であるため車にも注意しなくてはいけません。
地域の方と良い関係を作ることができるように、散歩に出た際は必ずこちらからあいさつをしたりと意識していました。
園庭が無い環境での工夫が必要
中規模の保育園は、園庭がとても狭かったり、園庭自体がないという可能性もあります。
子どもたちが少しでも体を動かせるように、テラスや屋上を開放して遊んだり、プールを行う時も限られたスペースを使って工夫しながら準備をしました。
また、思い切り走り回って遊ぶことができるような公園を探す必要もありました。
多様性を忘れてしまいがちになる
クラスの人数が少ないため、好きな遊びや月齢、男女比が偏ってしまうという可能性が考えられます。
子どもの人数が多い保育園であれば、さまざまな発達段階の子がいて、異なる家庭環境、国籍が違う子、絵本が好きな子、テレビのヒーローが好きな子、甘えん坊な子など個性豊かな子どもたち揃います。いろいろな子どもたちの姿が見られるということは、保護者にとっても安心感に繋がります。
中規模保育園では人数が少ない良さがある一方で、子どもたちの多様性を忘れがちになってしまうという難しさも経験しました。
中規模保育園で保育を行う時に大切にしたいこと
〜子どもとの関わり〜
一人ひとりに丁寧な関わり方をすることができる中規模保育園の良さを活かし、子どもたちが心から安心して過ごすことのできる援助を常に考えていくことが大切だと思います。
また、保育園の関係者だけでなく、地域の人々との繋がりが持てるような活動を取り入れ、いろいろな人から受ける刺激を成長に繋げていきたいですね。
柔軟な保育計画を立てることができる強みを意識して、子どもたちの「やりたい!」「気になる!」の声を敏感にキャッチしていると、面白い保育ができるはずです。
〜保護者との関わり〜
保護者に対しては、より丁寧な情報共有や育児相談を行っていくことで、良い関係を築くことができます。
保育士の人数が少ない園では、運動会や発表会など大掛かりな準備が必要な行事で積極的に保護者の力を借りることもあります。
日頃から子どもの成長の喜びや悩みを共有したり、家庭での様子にも配慮したり、細かいケアをしていくことで保護者との信頼関係も強まります。
〜職員同士の関わり〜
仕事とプライベートの境界線が曖昧になりやすい職場であるため、「ここまでは仕事」「ここからはプライベート」という線引きを自分の中で決めておくと良いと思います。
また、限られたスペースで保育を行うため、他のクラスの担任との連携や情報共有はとても大切です。朝の出勤時に挨拶をしながら、その日の活動内容を伝え合い、「◯時に体操をするから、ちょっと騒がしくなるかも」「今日は散歩に出掛ける予定だから、保育室を広く使っても大丈夫ですよ」など、お互いのクラスの活動にも配慮すると保育がしやすくなります。
〜環境構成の工夫〜
広すぎないスペースで保育を行うため、子どもの姿が見えなくなってしまったり、どこに行ってしまったか分からない、という事態は起こりにくいです。
しかし、「どこにいても見渡せる」という環境が油断に繋がることも。死角になりやすい場所には必ず意識を向け、事故や怪我を防ぐことが大切です。
また、室内で体を思い切り動かす活動をする時は、子どもたちを2つのグループに分けて順番で行うなど工夫をすることでトラブルを防ぐことができます。
園庭がない保育園では近所の公園に遊びに出掛けることも多いと思うので、安全で遊びやすい公園をリサーチしておくことも大切です。
実際に足を運んで下見をし、子どもの足で何分くらいかかりそうか、トイレの有無、道路の交通量等を把握しておく必要があります。
中規模保育園で働いてみた感想
保育がしやすそう!という思いで選んだ職場でしたが、実際に働いてみると上述したような難しさもあり、勤務1年目は環境構成を考えることで精一杯になってしまいました。
小さな保育室だから、子どもの人数が少ないから、という油断は思わぬ怪我やトラブルに繋がります。常に子どもたちを見守り、配慮することは、園の規模に関係なく必要なことだと感じました。
一方で、中規模保育園だからこそ身につけられる保育のスキルもあります。
一人ひとりの子どもに寄り添うことができる環境で、子どもたちの心をより深く考える勉強ができました。「集団をどうまとめるか」という意識に囚われすぎることなく、個々の成長を大切にできるので日々の喜びもたくさんありました。
大きな保育園にも小さな保育園にも、それぞれの特徴や長所と短所があります。自分がやりがいを持って働くことができる園に出会えたら、保育の仕事はとても楽しいものになるはずです!
ライタープロフィール
佐藤愛美
元保育士のフリーライター。現場で働く保育士や、保育園に関わる保護者や地域の人々に向けて、リアルな情報発信を行っています。
好きな場所は沖縄の離島。「地域活性化×子育て支援」というテーマにも興味があります。